新春恒例、NHKニューイヤーオペラコンサートは、池袋、東京芸術劇場での開催となった。今回は特別編、観覧が抽選となった。今回は事情により、テレビからの観覧となった。指揮、阪哲郎、東京フィルハーモニー交響楽団。
まず、ヴェルディ「椿姫」から乾杯の歌、森麻季、笛田博昭、二期会合唱団・藤原歌劇団合唱部・新国立劇場合唱団・びわ湖ホール声楽アンサンブルが彩を添え、開幕にふさわしいものとなった。森の活躍ぶりは素晴らしい。笛田も東京での活躍の場が確立している。宮里直樹による「リゴレット」、「あれかこれか」、マントヴァ侯爵の好色ぶりを描く。高橋維はドニゼッティ「連隊の娘」から「誰でも知っている」、ベルカント・オペラの精髄を聴かせた。妻屋秀和はロッシーニ、「セヴィリアの理髪師」から「陰口はそよ風のごとく」、ベテランの味である。
モーツァルトでは、砂川涼子、黒田博による「魔笛」から「恋を知る人は」、聴きごたえ十分である。大西宇宙による「ドン・ジョヴァンニ」から「みんなで酒宴を」、素晴らしい。森谷真理による「後宮からの誘拐」から「どんな苦しみも」、コンスタンツェの強い意志が伝わった。
ビゼー「カルメン」から、石橋栄美、村上敏明による「故郷の声」は、ドン・ホセとミカエラの故郷を懐かしむ思いが伝わった。山下牧子による「セギディーリア」、何とか逃がしてもらおうとするカルメンの計略が伝わった。砂川涼子による「怖がるものか」、カルメンに誘惑されたドン・ホセを救わんとするミカエラの思いをうたい上げた。須藤慎吾による「闘牛士の歌」、闘牛士エスカミリオの心意気を見事に表現していた。カルメンはドン・ホセを捨て、エスカミリオに走ったため、ホセに殺されてしまう。それを暗示したものが「トランプ占いの3重唱」で、カルメンは自分のみならず、ホセも死ぬことを知り、エスカミリオに走ったかもしれない。「カルメン」を見るなら、「トランプ占い」にも注意すべきだろう。
ここで、NHKとオペラとの歴史が流れた。ニューイヤーオペラコンサート、イタリア・オペラ、スラブ・オペラ。それらを映像・電波で私たちのもとに届けてくれた。日本のオペラ界をけん引した歌手たちの映像も貴重だった。
ヨハン・シュトラウス2世「こうもり」から「夜会への誘い」、二期会合唱団・藤原歌劇団合唱部・新国立劇場合唱団・びわ湖ホール声楽アンサンブルの合唱から、オルロフスキー公爵の夜会へ招き入れられるような雰囲気が伝わった。
森麻季によるコルンゴルト「死の都」より「ただ一つの幸せ」、しっとりとした歌に過ぎし日の思いを歌い上げる、味わいに満ちたものだった。村上敏明によるヴァーグナー「ヴァルキューレ」より「冬は過ぎて」、ドイツ・オペラへの初挑戦はまずますだった。
ヴェルディ、小林厚子による「ドン・カルロ」から「泣かないで」、かつての婚約者だったドン・カルロとの思いを歌い上げる複雑な思いが伝わった。上江隼人による「仮面舞踏会」から「心を乱す者よ」、このオペラは原型となったスウェーデン国王暗殺事件に戻して上演されることもある。主君が臣下の妻に思いを寄せていたことを知り、怒りをにじませていた。
プッチーニ、福井敬による「トスカ」から「星は光り」、画家カヴァラドッシの悲しみがにじみ出ていた。小林厚子、山下牧子による「蝶々夫人」から「桜の枝をゆすり」、待ちわびた夫、ピンカートンが来る喜びとその後の事実を知るに至る悲劇。揺れる心を描いていた。
笛田博昭によるレオンカヴァルロ「道化師」から「衣裳を」、妻の裏切りを知った男の悲劇を歌い上げた。大村博美によるヴェルディ「運命の力」から「神よ、平安を」、ふとした悲劇から運命に翻弄される恋人たちの悲劇、神への救いを求める思いが伝わった。
ベートーヴェン「フィデリオ」から「このよき日」、福井敬・森谷真理・大西宇宙・高橋栄美・妻屋秀和、二期会合唱団・藤原歌劇団合唱部・新国立劇場合唱団・びわ湖ホール声楽アンサンブルの合唱が夫フロレスタンを救い出したレオノーレ、フロレスタンの友人、司法大臣ドン・フェルナントをはじめ、マルツェリーナ、ロッコが喜びにあふれ、自由の思いを歌い上げていく。コンサートの締めくくりにふさわしい。
二期会では現代ドイツ史を踏まえた演出による上演で、ベートーヴェン生誕250年を飾った。意義ある上演だったことは言うまでもない。
締めくくりはヨハン・シュトラウス2世「こうもり」から「ぶどう酒の燃え上がる流れに」、来年はNHKホールに戻るが、オペラ界の地図はどうなるだろうか。
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