3月19日、桐朋学園大学、調布キャンパスで日本音楽学会、東日本支部第35回定例研究会、シンポジウム「ブゾーニ再考」が行われた。ブゾーニの美学、作曲家としてのブゾーニから、これまでのブゾーニ像を問い直すものであった。
そんな中、オペラ作曲家としてのブゾーニの全体像を明らかにした長木誠司の研究は注目すべきだろう。19世紀後期から20世紀初頭にかけて、イタリアにもヴァーグナーの影響が現れ、ヴァグネリズムの嵐が吹き荒れた。また、ブラームスをはじめとするドイツ音楽の影響も大きくなり、マルトゥッチ、ズガンバ―ティのように器楽作品中心の作曲家も現れ、
ドイツ音楽の影響も顕著になって来た。それでも、イタリアはオペラ中心であった。
ブゾーニはヴィルトゥオーソ・ピアニストとして世界的な名声を博し、バッハのクラヴィーア作品の校訂版を出版、今日でもバッハ演奏の一つの指針となっている。1894年以降、ベルリンに定住するようになり、当時のイギリス・フランスの音楽をドイツ・オーストリアに紹介したり、ピアノのマスター・クラスで教鞭を執ったりした。そんな中でオペラの創作活動を展開していった。
ブゾーニはヴァグネリズムよりイタリアの「コンメーディア・デッラルテ」に立脚した一方、ヴァグネリズムの影響も受けていた。1924年のブゾーニの死によって未完となった「ファウスト博士」ではヴァグネリズムに立っている。悪魔メフィストフェレスとの契約より若返ったファウストが公爵夫人と駆け落ちし、子どもを儲けたり、古代ギリシアの美女ヘレナとの出会いを経て、メフィストフェレスが子どもの死骸を持ってくると、ファウストは子どもに戻っていく。ブゾーニはファウストの分身であり、ブゾーニの人生の総決算であることが明白となる。これはゲーテのファウストとも相通ずる面がある。その面からこのオペラの本質を明らかにした功績は大きい。
オペラ作曲家としてのブゾーニの本質に迫った労作として高く評価したい。ブゾーニのオペラからイタリアのヴァグネリズムを再考することにもつながってほしい。
( みすず書房 5459円)
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