日本を代表するオペラ団二期会が、ヴァーグナーの傑作で20世紀音楽などに大きな影響をもたらした「トリスタンとイゾルデ」(10日、11日 東京文化会館)を上演、大きな成果を収めた。今回の初上演はライプツィッヒ歌劇場との提携公演、ヴィリー・デッカー演出、指揮ヘスス・ロベス=コボス、読売日本交響楽団によるものである。
日本人歌手・外国人歌手混成のAキャスト、日本人歌手のみのBキャストによるダブル・キャスト制をとり、トリスタンにアメリカのヴァーグナー歌手ブライアン・レジスター、日本を代表するヘルデン・テノール福井敬、イゾルデに横山恵子、メッツォ・ソプラノの池田香織、マルケ王に清水那由太、小鉄和弘、クルヴェナールに大沼徹、友清崇、ブランゲーネに加納悦子、山下牧子、メロートに今尾滋、村上公太というキャスティングであった。
デッカーの演出ではボートと櫂が特徴的であった。第1幕ではボートに閉じこもり、いらだちを見せるイゾルデ、ブランゲーネが飲ませた愛の妙薬によりトリスタンと愛し合うようになっていく。第2幕ではトリスタンとイゾルデがボートで泉の中に漕ぎ出し、愛を高め合い、死を意識するようになる。第3幕では真っ二つに折れたボート、壊れた櫂により傷深きトリスタンがイゾルデを待ち、イゾルデの中で息を引き取り、イゾルデもトリスタンの後を追うように息を引き取り、2人が死をもって結ばれる。ボートと櫂でトリスタンとイゾルデの「遂げられぬ愛」を描きだした。
レジスターのトリスタンは当日の体調が万全ではなかったにせよ、素晴らしい歌唱を聴かせた。福井も神奈川県民ホールでの「さまよえるオランダ人」エリックをしのぐ素晴らしい内容だった。イゾルデの横山恵子も2008年の「ヴァルキューレ」以来の出来で、ヴァーグナーへの自信が垣間見えた。ヴァーグナーを得意とする池田も万全の歌唱であった。マルケ王の清水、小鉄も王の風格たっぷりの歌唱だった。大沼、友清のクルヴェナール、加納、山下のブランゲーネもオペラ全体を引き締める内容だった。今尾、村上のメロートも存在感たっぷりの好演だった。
二期会が目標としてきた日本人によるヴァーグナー、リヒャルト・シュトラウス上演が「トリスタンとイゾルデ」で完結したことは大きい。そこには藤原歌劇団を含め、日本オペラ界の人材育成が進んだことにある。とりわけ、二期会の歌手層の厚さは特筆すべきだろう。1997年に開場した新国立劇場も人材育成に励んできたことは特筆すべきだろう。
今回の上演が大きな成果を上げたことにより、日本のオペラ界に新たな1ページを開いたことを祝福したい。
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