今、ロシアで最も勢いのある指揮者、ヴァレリー・ゲルギエフがマリインスキー劇場と共に来日、管弦楽団特別演奏会でのチャイコフスキー・プログラム、ロシア・オペラの名作の一つ、チャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」でチャイコフスキーの世界を私たちにたっぷりと披露した。(15日、16日 東京文化会館)
まず、特別演奏会。幻想序曲「ロメオとジュリエット」はシェークスピアの名作を基に、キャピュレット家、モンタギュー家の争い、双方の家の恋人たちの悲劇を描いたもので、チャイコフスキーがこの名作に抱いた思いを見事に表現していた。ピアノ協奏曲第1番、Op.23は15歳のピアニスト、アレクサンドル・マロフェーエフを迎え、見事な演奏を繰り広げた。マロフェーエフには答礼の際、あどけなさが感じられたとはいえ、自分の音楽を堂々と表現していた。交響曲第5番、Op.64はロシアに戻ったチャイコフスキーの自信が伝わった。1889年、チャイコフスキーがハンブルクで指揮を執った折、ブラームスが聴きに来て、この交響曲をめぐって歓談し、ブラームスも一定の評価を下していた。チャイコフスキーの円熟した音楽、その中に秘められたロシア人としてのチャイコフスキーの苦悩も伝わっていた。チャイコフスキーの音楽に秘められたロシア人としての苦悩、感情こそロシアの指揮者、オーケストラの真頂骨だろう。
「エフゲニー・オネーギン」は貴族エフゲニー・オネーギン、親友の詩人レンスキー、地主貴族ラーリナ夫人と2人の娘タチャーナ、オリガをめぐるロシア・オペラの名作の一つである。ラーリナ夫人を演じたスヴェトラーナ・フォルコヴァ、乳母を演じたエレーナ・ヴィトマンがしっかりオペラを支えた。オネーギンを演じたロマン・ブルデンコが「エエカッコシイ男」のダンディズム、哀れさを見事に引き出した。レンスキーを演じたディミトリー・コルチャックは婚約者オリガへの思い、オネーギンとの決闘に臨む時、死を覚悟した決意を迫真の歌唱力で演じた。タチャーナを演じたエカテリーナ・ゴンチャローヴァはロマンティストでオネーギンへの思いを歌う乙女、グレーミン公爵夫人としての威厳、オネーギンとの別れを見事な歌唱、演技で演じた。オリガを演じたユリア・マトーチェキナも好演だった。グレーミン公爵を演じたアレクセイ・マルコフの見事な歌唱も聴きものだった。
チャイコフスキーのオペラは「エフゲニー・オネーギン」、「スペードの女王」が名作としてよく上演されているかもの「マゼッパ」、「チェレヴィチキ」、「チャロディカ」のような往作もある。こうしたオペラの日本で上演される機会がもっと増えてほしい。「イオランタ」、「オルレアンの少女」が日本で上演されただけである。その他、まだ知られていないロシア・オペラの名作の日本上演を望みたい。
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admin (木曜日, 21 4月 2022 05:52)
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