ロシア出身、ベルギー在住の鬼才ピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフ(1947-)が音楽評論家、青澤隆明のインタヴューにこたえる形で、人生の回想、音楽への思いを語り尽くしている。ピアニストでありながら小説、エッセイ、詩を書き、全て日本語訳が出ている。今回、講談社現代新書からこの書が出た背景には、「ピアニストのノート」を出版したことによる。
人生の回想ではピアノとの出会い、ソ連時代のピアノ教育、背後でうごめく政治、KGBの影、ヤコブ・ザーク、エミール・ギレリスとの出会い、コンクール出場、ベルギーへの亡命、現在に至るまでを振り返っている。厳格なザーク、音楽、人生の師であったギレリスの思い出を語りながら、コンクールにうごめく政治、KGBがどのような形で圧力をかけたかも明らかになっている。西側での矛盾に気づいたりする。そんな中で芸術家、ピアニストとして成長した姿を淡々と語っていく。
音楽ではアルトゥーロ・トスカニーニ、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーを始めとした名指揮者たち、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリといった名ピアニストたちに触れ、ダヴィド・オイストラフ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチをソ連時代に聴くべきだったと後悔している。また、ベート―ヴェン「悲愴」、「月光」、「熱情」レコーディング、ベートーヴェンのピアノ・ソナタへの思いが伝わって来た。さらに、2016年にリリースしたモーツァルト、ピアノ・ソナタのCDに関することもある。
全編からアファナシエフの芸術家、音楽家、ピアニストとしての信条、思想が伝わって来る一冊である。新書版とはいえ、大変読み応え十分、ご一読をお薦めする。
(講談社 800円+税)
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