ロシア生まれの鬼才ピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフがモーツァルトに挑んだ。K.310、イ短調、K.330、ハ長調、K.331、イ長調「トルコ行進曲付き」の3曲である。10月29日、浜離宮朝日ホールでのリサイタルではK.330、K.331「トルコ行進曲付き」を取り上げていた。
K.310。第1楽章は重々しい、暗い音楽を強調、遅めのテンポでじっくり進める。殊更第1主題を強調していることが聴き取れる。第2主題は歌に満ちている。展開部ではさらに重々しく、暗い性格を浮き彫りにしている。第2楽章。一見たどたどしく聴こえるようでも芯のしっかりした音楽である。じっくり歌う姿勢も聴き取れる。第3楽章。プレストとありながら、急がずじっくり弾き進めていくとはいえ、この作品の性格をしっかり捉えている。中間部の暖かさがかえって際立って来る。
K.330。第1楽章。引きずるかのようであっても、典雅な響きが全体を包む。歌にも満ち溢れている。第2楽章。深みがあってもクリアーな音の響きが快く、歌心十分である。中間部でのほの暗さが素晴らしいコントラストを生み出す。コーダの余韻が素晴らしい。第3楽章。明るさ、喜びに満ち溢れている。歌も見事である。締めくくりもしっかりしている。
K.331。第1楽章の変奏曲。アファナシエフはどう弾くか。主題は歌を大切にしている。第1変奏、ぎこちなさが目立っても歌がある。第2変奏、個性的な演奏、歌が生きている。第3変奏、悲しみに満ちた歌が流れ、印象深い。第4変奏、暖かな歌が聴きものである。第5変奏、いささか速めのテンポ、歌を忘れていない。第6変奏、締めくくりとはいえ遅めのテンポで、装飾音の弾き方が独特である。歌が生きている。第2楽章、メヌエット。歌にあふれ、主部中間部の悲しげな部分も聴かせる。トリオは温かみに満ち、和やかである。第3楽章、トルコ行進曲。遅めのテンポで始まる。モーツァルト自身「アラ・トゥルカ」と記し、ロンドとして作曲している。イ長調の主題がかえって威厳あるものとなっている。嬰ヘ短調のパッセージとも好対照になっている。アファナシエフはモーツァルトがロンドを意図して作曲していたことを我々に示したような気がする。
このCDは2016年、生誕100年を迎えた師エミール・ギレリスに捧げている。アファナシエフがギレリスから得たものは大きかったことを改めて示したとも言えようか。
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