モース・ぺッカム 高柳俊一、野谷啓二訳 悲劇のヴィジョンを超えて

 アメリカの文化史家モース・ぺッカムによる19世紀文学、音楽、美術、哲学史を論じた優れた内容で、音楽ではベートーヴェン、シューベルト、ベルリオーズ、ショパン、メンデルスゾーン、シューマン、リスト、ヴァーグナー、ブラームス、ドビュッシー、文学ではゲーテ、スタンダール、バイロン、バルザック、ワーズワース、ブラウニング、ゾラ、ヴェルレーヌ、ボードレール、マラルメ、美術ではフリードリッヒ、ターナー、セザンヌ、ルノワール、マネ、モネ、ゴーギャン、哲学ではカント、ヘーゲル、ショーペンハウアー、ニーチェに至る。

 ぺッカムは19世紀文化、芸術、思想を社会の変化から捉え、ヨーロッパ市民社会における文化と思想、芸術のあり方を様々な視点から論じ、その本質に迫っている。19世紀後期から今日に大きな影響を与えたニーチェを、18世紀の啓蒙思想がロマン主義に至り、一つの行き詰まりを見せて来た時、人間の精神は世界の創造、虚無からの創造にあることによって解決したと位置付けている。

 ベッカムには「ロマン主義の勝利」、「ロマン主義と行動」、「ロマン主義とイデオロギー」(いずれも論文集)、「ロマン主義の誕生」、「ロマン主義の巨匠」といった19世紀文化に関する著作がある。これらの著作の日本語訳が出版されると、ロマン主義の本質を理解するうえでも重要だろう。ぜひ、実現してほしい。

 

(上智大学出版 ぎょうせい 4300円+税)