ラルス・フォークト クリスティアン、タニア・テツラフ ブラームス ピアノ3重奏曲 第1番

 ドイツの中堅ピアニスト、ラルス・フォークトがヴァイオリニスト、クリスティアン・テツラフ、チェリストでクリスティアンの妹タニアとともにブラームス、ピアノ3重奏曲全曲に取り組んだ。まず、第1番を聴く。

 若きブラームスの面目躍如とはいえ、ブラームス自身1889年に改訂している。第1楽章は落ち着いた、どっしりとした第1主題に始まり、大きく発展する。その後、憂鬱な第2主題が発展、情熱的に提示部を締めくくる。展開部は第1主題を中心に緻密、かつじっくりと発展、盛り上がりを見せていく。再現部では第1主題を変奏しつつ、スケールの大きな音楽となっている。コーダは堂々と締めくくる。

 第2楽章、スケルツォ、ロ短調の不気味な主部に始まる。トリオの穏やかな歌が聴きもので、歌に溢れている。次第に曲想が高揚、主部に戻っていく。フォークト、テツラフ兄妹の息の合った演奏が見事である。主部に戻った後、コーダではロ長調に戻り、静かに消えていく。

 第3楽章。たっぷりした歌心にあふれている。フォークトがじっくり歌い上げ、テツラフ兄妹もこれに応じていく。渋いながらも温かみを感じさせるブラームスの音楽の本質を捉えている。中間部の情熱のほとばしりもしっかり捉え、歌に満ちたこの楽章を閉じていく。

 第4楽章。フィナーレがロ短調を取ることには、当時のブラームスの心の葛藤がある。ブラームスは次第にクラーラ・シューマン夫人への思いを募らせていく。しかし、自分を楽壇に送り出したローベルト・シューマンへの罪悪感も感じるようになり、己の葛藤を表現しようとしただろう。3人がそんなブラームスの思いをしっかり掴んで、スケールの大きな演奏を繰り広げている。

 後年、ブラームスが改訂を加えた事情には、己の葛藤を生々しく描こうとしたことに対して、若き日の思いを見据え、冷静に振り返っていこうとしたからではなかろうか。