ユリアン・プレガルティエン、鈴木優人。どちらもバッハ演奏家ミヒャエル・プレガルティエン、鈴木雅明を父にもったこの2人がシューベルト「冬の旅」D.911に挑む。
今回はシューベルト時代のフォルテピアノを用い、その心髄を示した。第1曲「おやすみ」が切実なものに響く。愛する人との別れが聴くものの心を揺さぶる。若者の悲しみ、絶望感。かつての幸せを振り返るも遠い夢に過ぎない。第11曲「春の夢」はそんな思いを見事に歌いあげていく。
第13曲「郵便馬車」での希望、絶望の交錯した感情、死を望みながらそれもかなわぬ若者の思いが歌いあげられ、第24曲「辻音楽師」では5度和音の響きがフォルテピアノでは一層切実な響きとなって、心に響く。それがこの歌曲集の締めくくりとなって、余韻を残していく。
ユリアン・プレガルティエンの歌唱、鈴木優人のフォルテピアノが一つになり、シューベルトが描いた絶望感を切実に表現した。1820年代のドイツ・オーストリアにおけるメッテルニヒ体制はベートーヴェンをはじめ、シューベルトにも閉塞感をもたらした。フォルテピアノによる演奏が一層、それを伝えたような気がする。
「美しき水車小屋の娘」、「白鳥の歌」によるリーダー・アーベントも期待したい。
(11日 紀尾井ホール)
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admin (木曜日, 21 4月 2022 05:52)
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