日本ではヘルベルト・フォン・カラヤンと人気を二分したカール・ベームは、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とモーツァルト交響曲全集、シューベルト交響曲全集をレコーディングしている。このオーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットのための協奏交響曲、K.297bは、モーツァルトが母と共にマンハイム・パリへの就職旅行の際、パリで作曲したもので、筆写譜で辛うじて残った。しかし、これは偽作という説もある。真偽が明らかになる可能性もある。コンセール・スピリチュエルの依頼で作曲した大作もあったものの、これは楽譜すら残らなかったという。いずれ、この筆写譜が出てくる可能性もあるだろう。
この旅行、ミュンヒェンでは席がないという理由で就職口は見つからない、マンハイムではカペルマイスターの職は得られなかった。その上、この地で出会ったファゴット奏者フリードリン・ヴェーバーの娘、アロイジアに恋したものの失恋する。マンハイムに長逗留するヴォルフガングにしびれを切らした父レオポルトは、パリ行きを勧めた。パリに着いても貴族たちの館を回れどあてはなし、ついに母が亡くなる。皮肉にも母の亡くなった日、交響曲第31番、K.297「パリ」が大成功を収めることとなった。
さて、協奏交響曲はバロック時代の合奏協奏曲の形態を基とし、パリで流行した。ベートーヴェンはパリ移住を考え、協奏交響曲様式を踏まえたピアノ、ヴァイオリン、チェロのための3重協奏曲、Op.56を作曲している。独奏楽器群、オーケストラにより、古典的な協奏曲形式である。
第1楽章。荘重かつ、堂々とした第1主題、じっくり歌う第2主題。オーケストラによる提示の後、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットが加わり、音楽を展開する。この時期のベルリン・フィルの首席奏者カール・シュタインス、カール・ライスター、ゲルト・ザイフェルト、ギュンター・ピースクが素晴らしい音楽を聴かせる。コーダ前のカデンツァではアンサンブルも見事である。第2楽章。歌に満ち溢れた世界が広がっていく。独奏楽器群、オーケストラが見事に調和している。味わい深い演奏である。第3楽章。主題と10の変奏。まず、独奏楽器群が主題を奏し、オーケストラが引き継ぐ。変奏では独奏楽器群、オーケストラが音楽を展開してゆく。自然な音楽の流れが心地よい。アレグロのコーダでも自然に流れ、堂々と締めくくる。
ベームの数多くの名演中、この演奏も長く聴き継がれていくだろう。
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