東京学芸大学、国立音楽大学、武蔵野音楽大学などで教鞭をとり、バッハ研究の第一人者、東川清一による古今東西の音楽理論の心髄を解明した著作で、1994年、音楽之友社から「だれもしらなかった楽典のはなし」が筑摩書房から文庫版として出版された。この版では53等分割律音階に関する記述が加わり、旧版より内容の濃いものとなっている。
恩師の一人、東川先生でも、楽典は「初心者のための入門書」、「音大受験生のための入試対策問題」と考えていた。しかし、音楽理論が単なる「知識」でいいかと感じた時に、音楽之友社の雑誌「教育音楽 中学/高校版」1981年1月号から連載するようになり、音楽学面から論じていった。武蔵野音楽大学3年の1982年、そうした観点から音律論を取り上げられたことを思い出す。1980年代から古楽演奏が興隆して、バロック時代の演奏ピッチにも大きく貢献した面もある。
参考文献として、New Grove,MGG,Harvard Didtinary of Music, The New Harvard Dictionary of Musicといった音楽学の基礎文献、先生ご自身が翻訳されたテュルク「クラヴィーア教本」、ご自身の著作「音楽理論を考える」、「日本の音楽を探る」、「シャープとフラットのはなし」をはじめ、武蔵野音楽大学研究紀要「西洋音楽史上の音組織論にみる類・均・調・旋法をめぐって(2)ーーティンクトリスの旋法理論ーー」を中心にまとめ、それまでの集大成となっている。
この書は音楽を学ぶ人、聴く人のための総合入門としてぜひご一読をお勧めしたい。文庫版となったこともあり、座右の書となるだろう。
(筑摩書房 1300円+税)
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