ヘルベルト・ブロムシュテット ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 ヴィーン楽友協会合唱団 ブラームス ドイツ・レクイエム Op.45


 ヘルベルト・ブロムシュテット、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートは13日、会場をNHKホールに移し、ブラームス、ドイツ・レクイエム、Op.45を取り上げた。これはNHK音楽祭の一環としてのコンサートで、ヴィーン楽友協会合唱団、ソプラノ、ハンナ・モリソン、バリトン、ミヒャエル・ナジによる。(13日 NHKホール)

 ブラームス畢竟の大作、ドイツ・レクイエムは旧約聖書から詩編、イザヤ書、続編から知恵の書、シラ書、新約聖書からマタイによる福音書、ヨハネによる福音書、コリントの信徒への手紙 1、ヘブライ人への手紙、ペトロの第1の手紙、ヤコブの手紙、ヨハネの黙示録をテキストに用い、ドイツ・プロテスタント教会音楽の新しいジャンルを開いた作品で、死者への追悼と共に人生の希望へ思いがある。ブラームスは聖書、フラウィウス・ヨセフス「ユダヤ古代史」、「ユダヤ戦記」を傍らにおきつつ、マルティン・ルターの著作も熱心に読んていただろう。

 第1曲「貧しい人は幸いである」が静かに歌われる中、人生の希望が伝わる。世の無常と希望、常にイエス・キリストの救いを待ち望む人々の思いを歌い上げている。ミヒャエル・ナジ、ハンナ・モリソンの素晴らしい歌唱がこの作品を一段と引き立てた。ヴィーン楽友協会創立は1812年、最初の名誉会員がベートーヴェン、シューベルトも理事を務めた。ブラームスも楽友協会の指揮者となった。ブラームスゆかりの合唱団が素晴らしい演奏を聴かせた。何といっても、オーケストラによるブラームス特有のいぶし銀の味わいが伝わった。

 ブラームスがドイツ・レクイエムに取り組んでいた時、ヴァーグナーは「ニュルンベルクのマイスタージンガー」に取り組んでいた。この2人がヴィーンで出会い、親交を温めたことは大きい。ブラームスの音楽の中にはヴァーグナーが忍び込んでいる。それなら、なぜ、党派抗争に至ったか。今後の課題だろう。

 ゲヴァントハウス管弦楽団の常任だったクルト・マズア、ヘルベルト・ブロムシュテットが1927年生まれということは興味深い。20年以上常任となり、1989年の東欧革命の折のマズアの行動は語り草となっているし、来日した時のベートーヴェン・ツィクルスではその息吹が伝わっていた。マズアは2015年、88歳でこの世を去っている。その後を継いだブロムシュテットが90歳の今、現役で活動、ゲヴァントハウス管弦楽団と来日した。この来日公演では久々にドイツ音楽を堪能できた充実感を味わうことができたといえようか。