歌舞伎座12月公演、第3部は坂東玉三郎の至芸を味わうに相応しい演目「瞼の母」、「楊貴妃」の2本であった。
「瞼の母」では市川中車の忠太郎が見事で、中車自ら実父猿翁との対面を果たすまでの歳月が滲み出て、迫真の演技だった。それなくば、歌舞伎の道に進むこともなかっただろう。とはいえ、46歳で歌舞伎役者となったことを思うと、歌舞伎の世界になじんでいくことは大変だっただろう。ここ最近、古典ものでも市川海老蔵とも互角に立ち会える存在に成長したことは評価したい。坂東玉三郎の実母、おはまもこれに応えた見事な芝居だった。中村梅枝、中村歌女之丞の演技も光った。
「楊貴妃」は玉三郎の独壇場で、唐代、玄宗の寵愛を受けた絶世の美女で、安禄山の乱の折、殺された後、蓬莱宮に住んでいた楊貴妃を玄宗の使者が訪ねて来るという設定である。
これは唐中期の詩人、白居易(白楽天)「長恨歌」に基づくもので、能楽、中国の京劇の要素を取り入れ、見事な舞台を繰り広げた。筝、胡弓を用いた音楽も見事である。
唐王朝は安禄山の後、衰退に向かい、859年の裘甫の乱、868年の龐勛の乱で衰退が著しく、874年から10年にわたる黄巣の乱は、唐王朝にとどめを刺した。既に、平安時代となった日本では894年、菅原道真が遣唐使を廃止、907年、唐王朝は終焉した。それでも、玄宗と楊貴妃の悲話が長く、日本人に伝わったことは大きいだろう。
中国の京劇に学び、素晴らしい舞台を披露した坂東玉三郎の至芸を味わった一時であった。
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admin (木曜日, 21 4月 2022 05:51)
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