カール・リヒターの貴重な遺産の一つ、バッハ、マタイ受難曲、BWV244。ここでも磯山雅氏の解説がある。リヒターには晩年、フィッシャー=ディスカウ、ペーター・シュライヤーを迎えたマタイがある。これは、カラヤンの演奏に対抗したものだろう。こちらは1958年、リヒター絶頂期の演奏で、エルンスト・ヘフリガーをエヴァンゲリスト、キート・エンゲンをイエスに迎えた名演中の名演である。
冒頭の合唱の重々しさ。ゴルゴタの丘へ向かうイエス・キリストを思わせる。コラールにせよ、エヴァンゲリストの語りも重々しさに満ちている。ゆったりしたテンポがかえってキリスト受難を象徴している。エンゲンの重々しい歌唱ぶりからも窺われる。ヘルタ・テッパー、イルムガルト・ゼ―フリートの真摯な歌唱が活きる結果となった。また、ヘフリガーはアリアも歌っている。アリアも真摯な歌いぶりである。フィッシャー=ディスカウの名唱が華を添える。
リヒターは重々しく、ゆったりとしたテンポでキリスト受難を提示する。そこにミュンヒェン少年合唱団も加わり、素晴らしい効果を上げている。第1部の締めくくり「汝の罪を嘆け」は絶品である。イエス・キリストの裁判ではドラマティックな効果が素晴らしい。ローマ総督、ポンティウス・ピラトゥスの裁判でイエス、バラバのどちらを許すかと問う場面で頂点に達する。十字架刑を言い渡されたイエス、ローマ兵の嘲笑に会うイエス。その心境を見事に捉えている。ゼ―フリート、テッパー、フィッシャー=ディスカウが見事に歌う。ゴルゴタに着き、息を引き取る姿。それと共に起こった天変地異。居合わせた人々が「これこそ、神の子」とつぶやく。イエスの埋葬、墓にぬかずく人々の悲しみ。それらが見事に描かれている。「マタイ」を語るなら、絶対に聴くべき名演である。
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児玉 隆 (土曜日, 17 3月 2018 22:18)
カールリヒターが1981年2月15日に逝去してもう37年になりますね。当方も今年で70歳になりますが、高校生のときからリヒターのマタイ受難曲を聞いてからファンになりました。1969年5月2日の大阪フェスティバルホールで聴いた彼のマタイ受難曲も忘れることができません。
今はレコードはもちろんですが、所蔵しているカールリヒター&ミュンヘンバッハ管弦楽団・合唱団のDVDすべてを家庭にて時々視聴しています。
また、カールリヒターの墓地がチューリッヒにあるので、是非一度訪れてみたくも思っています。
カールリヒターとは関係ありませんが、昨年6月9日~18日までライプツィヒでのバッハフェスティバルにも行ってきました。今年はケーテン・バッハ音楽祭にも行きたく計画しています。(ケーテン・バッハ音楽祭は隔年開催です)
これを機会に宜しくお願い致します。
畑山千恵子 (土曜日, 17 3月 2018 22:29)
そうでしたか。それはよかったですね。ケーテンへ行かれましたら、ケーテンだよりをよろしくお願いいたします。
admin (木曜日, 21 4月 2022 05:50)
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