日本を代表するソプラノ歌手、東敦子(1936-1999)はイタリア・オペラ、殊にプッチーニ「蝶々夫人」では定評があった。世界的プリマドンナであっても、日本人である以上、日本歌曲に立ち戻ってくる。1989年10月7日、東京文化会館小ホールでのリサイタルのライヴとはいえ、その素晴らしい歌唱には言葉も大切にしながら、作品の詩情が伝わって来る。
別宮貞雄「淡彩抄」、山田耕筰「風に寄せてうたへる春の歌」、高田三郎「ひとりの対話」をによるブログラムで、アンコールは平井康三郎「平城山」、日本古謡「さくらさくら」、山田耕筰「曼珠紗華」「中国地方の子守歌」である。
別宮作品に流れる追憶と悲しみ、山田作品の春の詩情。これらが自然と沸き立って来る。高田作品は高野喜久雄の詞による。高野の詞には代表作となった合唱組曲「水のいのち」がある。心の対話を描きだす。アンコールに入っても「平城山」の深さ、「さくらさくら」でも一点もゆるがせにしない歌唱、「曼珠紗華」のしっとりとした詩情、「中国地方の子守歌」も名唱だろう。
当日のピアノを担当した横山修二が東への素晴らしいサポートを見せている。歌曲、室内楽専門のピアニストほど大切なものはない。こうしたピアニストこそ、音楽を理解しているし、侮れない。ソロ・ピアニストより難しいだろう。
世界的プリマドンナであれ、自国の歌こそ原点だろう。その意味で、このリサイタルがCDで残ったことは大きな意味がある。
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admin (木曜日, 21 4月 2022 05:50)
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