ピエール・フルニエ、ヴィルヘルム・ケンプによるベート―ヴェン、チェロ・ソナタ全集は後期の2曲、Op.102-1,2、ヘンデルのオラトリオ「マカベウスのユダ」、モーツァルト「魔笛」の主題による2つの変奏曲で締めくくることとなる。
Op.102-1は自由、かつ幻想的でロマン主義へと向かっている。第1楽章はハ長調のゆったりとおおらかな部分から、イ短調のソナタ形式による主部からなる。第1主題中心で、第2主題はエピソード風となっていく。第2楽章もアダージョの深い歌、アンダンテからアレグロ・ヴィヴァーチェのフィナーレに至る。ベートーヴェンがピアノ・ソナタで行った試みをチェロ・ソナタで行い、一つの境地を作り上げたといえよう。
Op.102-2は伝統的な3楽章形式とはいえ、、後期ベートーヴェンの特性が現れている。第1楽章は第1主題中心で、対位法的な傾向が目立つ。第2楽章の深遠な歌をとっても、後期の特性が滲み出ている。アタッカで第3楽章へ進み、フーガとなる。見事なフーガが展開する。これがピアノ・ソナタ、Op.106「ハンマークラヴィーア」第4楽章の見事なフーガ、弦楽四重奏のための「大フーガ」、交響曲第9番、第4楽章での2重フーガへと至る。
ヘンデル「マカベウスのユダ」の主題による変奏曲は室内楽の楽しみが満ち溢れている。晩年のベートーヴェンはヘンデルを大変評価し、イギリス訪問実現のあかつきにはヘンデルの墓に詣でたいと口にしていたものの、実現しなかった。モーツァルト「魔笛」の主題によるものは、Woo.46が「恋を知るものは」を主題に用い、チェロ、ピアノが対等に変奏を展開、室内楽ならではの味わいを見せる。Op.66は「恋人か女房か」を主題として、チェロ、ピアノが変奏を交わしていく。ベートーヴェンがモーツァルトのオペラ中で、「魔笛」を高く評価していたことを裏付けている。ここでは、第10変奏にはピアノ・ソナタの緩徐楽章の深遠な世界がある。第11変奏ではシューベルトを先取りするような書法がある。第12変奏は締めくくりのアレグロとはいえ、ベートーヴェンならではの創意工夫に満ちている。
Op.102の2曲は、ヨーゼフ・リンケのために作曲したとはいえ、リンケ自身、戸惑いがあったかもしれない。それでも、リンケなくしては生まれ得なかった名作だろう。変奏曲もベートーヴェンならではの試みを聴き取ることができる。フルニエ、ケンプの名演はベートーヴェン、チェロ作品の規範として長く残るだろう。
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清野 鈴子 (月曜日, 08 10月 2018 23:39)
ケンプさんのベートーヴェン
Op102−1 2 演奏を聴きたいのですが どうすれば畠山さんのムジックplazaから聴けますか? 教えてください。
畑山千恵子 (火曜日, 09 10月 2018 21:56)
これは今、タワーレコードのオリジナル制作によるCDで入手できます。
admin (木曜日, 21 4月 2022 05:50)
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