ピーター・ゼルキンが72歳、すい臓がんでこの世を去った。2019年11月に来日公演の予定があったものの、かなり病気が進行したため、中止となっていた。
偉大な父ルドルフ・ゼルキンの存在が、ピーターには重荷だっだだろう。1968年~1973年、演奏活動を中断、インド・メキシコなどで放浪生活を続けた後、現代音楽から自分探しを始めた。それが室内楽グループ「タッシ」である。武満徹との出会いも大きい。
ピーターはレコーディングではベートーヴェンを取り上げることが少なかった。やはり、父ルドルフの影があるだろうか。しかし、Op.27-1「幻想風」、Op.27-2「月光」、Op.57「熱情」を取り上げたものがソナタでは唯一である。Op.27-1ではピーターの世界が広がっている。音色も格調高く、歌心も十分。この作品について、4楽章と解釈するむきもあるものの、3楽章制である。緩―急―緩ー急ー緩―急―緩―急の構成は教会ソナタの構成を発展させたものではないかと考えている。ピーターもそうだろうか。Op.27-2「月光」は第1楽章の渋み、内面性が見事である。第2楽章はたっぷりとした歌いぶりの中にも渋さがある。第3楽章、全てをぶつけて行く。この作品の中心である。ずっしりとした重みの中に、内面性も十分。Op.57「熱情」第1楽章を聴くと、完全にピーターその人である。ベートーヴェンの激しい感情が全体を覆っている。第2楽章、変奏主題をじっくり、かつたっぷり歌う。変奏が進むにつれ、感情が高揚する。それでも、ピアノの音色にはたっぷりした歌心がある。第3楽章へ入ると、抑制された動きの中に、内面性・燃焼度たっぷりの演奏が進んでいく。遅めながら、ベートーヴェンの音楽をしっかり捉えている。コーダに入ると、びっしりとまとめ、見事に締めくくる。
ピーターにとって、ベートーヴェンは父に較べられるため、重荷だっただろう。このCDを聴くと、完全にピーターの世界を築いた自信に満ちている。ベートーヴェンのピアノソナタのレコーディングを多く残してほしかった。
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admin (木曜日, 21 4月 2022 05:49)
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