シェーンベルク音楽論選

 12音技法を生み出したアルノルト・シェーンベルク(1874-1951)の音楽論集は、音楽史の一つの証言である。音楽史における新しさの本質を語った「音楽の様式と思想」には、時代が求めたものの何たるかを語っている。ブラームスの音楽の新しさがどこにあるかを論じた「革新主義者ブラームス」を読むと、ヴァーグナー派、ブラームス派の音楽論争が如何に下らないものだったかがわかる。ブラームスがヴァーグナー以上の革新性を秘めていたことを解明した作曲家としてのシェーンベルクの本質がある。

 シェーンベルクが12音技法を生み出したプロセスとしてのブラームスの音楽。12音技法はブラームスなくしては生まれなかったことも頷ける。「グスタフ・マーラー」でも、ブラームスの影響を読み取っている。マーラーは、「視野の狭い小人」とブラームスを酷評しても、シェーンベルクと出会って、間接的にブラームスの音楽を受容するに至ったプロセスも読み取っている。「音楽における心と理性」でも、ブラームスの音楽を受容していったシェーンベルクの本質が伝わる。

 「音楽教育の方法と目的」「音楽評価の基準」「民族的音楽について」はシェーンベルクの音楽思想の本質だろう。

「芸術の創造と大衆性」は、アメリカに移ったシェーンベルクがポピュラー音楽をどのように捉えたかがわかる。ヨーロッパでは常に新しい音楽を生み出さんとしたシェーンベルクが、アメリカに移った後、ジャズ、ポピュラー音楽に遭遇して戸惑うさまが窺える。

 この書は上田昭が1973年、三一書房から「音楽の思想と様式」として出版したものを、新たに筑摩書房「ちくま学芸文庫」として出版したものである。今でも読み応え十分であり、一読をお勧めする。

 

(筑摩書房 1300円+税)