ヴィルヘルム・ケンプ、ヘンリック・シェリング、ピエール・フルニエによるベートーヴェン、ピアノ3重奏曲、第3番。この作品はハ短調で、ハイドンは出版には反対だったとはいえ、ベートーヴェンの自信にあふれた1曲である。ベートーヴェンのハ短調と言えば、ピアノ・ソナタ第5番、Op.10-1、第8番、Op.13「悲愴」、第32番、Op.111、ヴァイオリン・ソナタ、第7番、Op.30-2、ピアノ協奏曲、第3番、Op.37、交響曲第5番、Op.67があり、傑作揃いである。
第1楽章。ベートーヴェンの自信にあふれた姿が伝わる。ヴァイオリン、チェロが独立して、全体の調和も考えられている。動機展開も充実している。短調ならでのパトスも伝わってくる。第2楽章はベートーヴェンならではの心からにじみ出る歌による変奏曲。ベートーヴェンの見せ所だろう。3人の名手たちが見せる歌心、深い味わいをじっくり聴き取れる。第3楽章はメヌエットとありながら、スケルツォだろう。それでも、名手たちの歌心が見事である。トリオでは暖かい歌が聴き応えある。第4楽章は力強い始まりから、ベートーヴェンならではのスケールの大きな音楽が広がっていく。それでも、抒情性豊かな部分があり、じっくり聴かせる。コーダは、全てを噴出した後、静かに全曲を締めくくる。
ケンプ、シェリング、フルニエがベートーヴェンの音楽の本質を捉え、味わい深い世界を生み出した名演であり、長く残るだろう。50年前のベートーヴェン生誕200年記念に出たものとはいえ、生誕250年の今聴いても素晴らしい。
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