19世紀ヴィーンのピアノ製造、音楽家たちとの関係からピアノがどのように生産され、用いられてきたか。筒井はる香が日本音楽学会での発表を基にまとめた著作である。
残念ながら、筆者は日本音楽学会全国大会での発表を耳にしたことがない。とはいえ、ピアノがどのように生産、かつ流通したかを解明した点では評価すべきである。特に、ベートーヴェン、ピアノ・ソナタの演奏には大きなヒントとなろう。
ピアノの大量生産が可能となった19世紀後半から20世紀、エラール、プレイエル、ブロードヴッド、スタインウェイ、ブリュートナーといったメーカーが興隆して来る。19世紀前半のヴィーンではピアノは小規模な工房が中心で、貴族・市民・音楽家たちの注文を受けて生産されていた。用途などを受け、願客たちの容貌に合うように制作していた。その中で、シュトライヒャー社が抜きんでていた。フンメル、シュポーア、ショパン、クラーラ・シューマンもシュトライヒャーを用いていた。また、コンサート・ホールも創設し、ヴィーンの音楽文化にも寄与したことは忘れてはならない。
特に、ベートーヴェン、ピアノ・ソナタの演奏におけるピアノの発展がどう影響したかについても言及、エラール・ピアノを送られたことが「ヴァルトシュタイン」「熱情」を生み、ブロードウッド・ピアノを送られたことが「ハンマークラヴィーア」を生んだことは当然のことだろう。他の作品ではヴィーンのピアノによって、多才な表現を生み出したことがわかってきた。ピアノの性能改良がベート―ヴェンのピアノ・ソナタに大きく影響したことも自明の理だろう。
現在のベーゼンドルファー社についても言及している。ヴィーンの伝統を引き継ぎながら、新しい可能性に挑戦する姿勢は評価すべきだろう。ヴィーンのピアノの伝統は今も健在である。
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