現代音楽の第一人者、沼野雄司による現代音楽史が中央公論社から新書で出た。20世紀から今日に至る音楽の歴史を概略的にまとめながら、その本質を突いたものとして、現代音楽入門書としても最適ではなかろうか。
まず、無調・表現主義・エキゾチシズムから始まる。シェーンベルク・ベルク・ヴェーベルンの12音音楽、ストラヴィンスキー「春の祭典」。調性音楽も残っている。ラフマニノフのロシア的な作品。ラヴェルの精緻なフランス音楽。シベリウスの北欧の香り漂う作品。リヒャルト・シュトラウスのロマン主義。一方で、新しい時代の音楽が始動する。それがドイツ、ドナウエッシンゲン音楽祭となる。
歴史を見ると、1914年、第1次世界大戦が勃発、1918年に終結する。この大戦で貴族・ブルジョアシーが没落、ソヴィエト連邦の誕生となった。新古典主義・新即物主義による音楽が生まれる。音楽は大衆文化となった。また、アメリカからジャズがヨーロッパに流入、ヨーロッパの音楽に新しい息吹を与えていく。レコード普及により、多くの人々が名演奏家たちの演奏に親しめるようになった、イタリアではファシズム体制が確立、ドイツのナチズムに繋がる。
1929年、世界大恐慌となる。1931年、満州事変が起こると、戦争の影が暗い影を落としていく。1933年、ナチズム体制も確立、ユダヤ人迫害を進めていく。ソヴィエト連邦はスターリン体制となった。ナチズムを逃れた人々がアメリカに亡命したため、アメリカは本格的なアメリカ音楽を生み出さんとした。日本の動きにも言及している。
1939年、第2次世界大戦が勃発、1945年、広島・長崎への原爆投下と共に終結する。ナチズム・スターリン体制が音楽に何をもたらしたかについて、「ファシズムの中での音楽」「抵抗の手段としての数」として、音楽のあり方にも触れている。
東西冷戦と音楽のあり方、セリエリズム、ミュジク・コンクレート、電子音楽、前衛音楽から1968年の学生運動、これは日本にも大きな影響を与えた。ベトナム戦争、アメリカの公民権運動。これらも音楽のあり方に大きな問いを残した。また、ビートルズに代表されるポップ・ミュージックの台頭。新ロマン主義に代表されるアカデミズム。東西冷戦終結による新たな音楽の流れ、テクノロジーによる新たな動き。これらがしっかりとまとめられている。
最後に、沼野は音楽評論のあり方に関する問いかけを提起する。今日の音楽評論のあり方はこれでいいか。評論の側から鋭く問いかけている。評論家とは何か。沼野だけではなく、私たちへの問いとして受け止めたい。
概説的でありながらも、音楽・歴史・社会の本質をしっかりまとめたものとして、現代音楽入門としてもお勧めしたい1冊である。
(中央公論社 900円+税)
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吟遊詩人 (土曜日, 09 10月 2021 02:00)
二度読みました。
私は音楽の知識がない絵描きなので、歴史の流れの中で紹介されている音楽家など、知ってる範囲でなるほどと受け取りました。
私個人としては、音楽も他の芸術分野の相対的な一般的関心として、茫漠とみていましたので、夫々の芸術分野別の歴史的進歩の遅速関係に興味を持つています。
またクラッシック音楽が持つ、古さそのものを保持する芸術価値とは何か(人間的普遍的価値の形象化というテーゼ)、それは変化し進歩発展しようとしているのか?するのか?大衆的流行の音楽との影響(バッハが音楽の基本形の体系を作ったとかの話は聞いてます)関係は?といった関心もあります。
ここでの概説もその意識で読ませてもらいましたが、最後の方にある音楽家や音楽界(クラッシク界だけ?評論意義の確認と課題のことか?)への問題提起がどんなことか、大変興味をもちました。
人類史的な新時代転換期に音楽と芸術一般が、どのような志向を持つのでしょう?
私個人は、第二の文芸復興の方向ではないか、つまり時代を遡り、人間性の再確認とそこか新たに再興する形式ではないかと推測しています。
換言するとクラシックの見直しとも言えるかもしれません。
などと感想を持ちました。