マリーア・ヒューブナー アンナ・マグタレーナ・バッハ 資料が語る生涯

 ヨハン・セバスティアン・バッハの2番目の妻、アンナ・マグタレーナには、後世の創作「バッハの思い出」は有名である。2010年、春秋社から伊藤はに子訳で出たこの書は、アンナ・マグタレーナの生涯を追いつつ、バッハとの間に生まれた子ども、特に娘たち、結婚した娘の子孫の生涯にも光を当て、バッハ家の女性たちの生涯を資料から描いた貴重な著作である。

 音楽家一家だったヴィルケ家に生まれ、アンハルト=ケーテン侯国の宮廷ソプラノ歌手となり、バッハと出会い、結婚、バッハがライプツィッヒ、トーマスカントールとなった時、バッハ家を支えた。1750年、バッハ亡き後、残された娘たちと共に10年にわたる未亡人生活を送った後、1760年、この世を去った。娘たちの中で、エリサベート・ユリアーネのみ結婚、残りの娘たちは未婚のまま、この世を去った。

 教会、ケーテンでの記録、トーマス学校などに残る記録を追いながら、アンナ・マグタレーナ、バッハ家の娘たちの生涯を描いたこの書は、バッハ家の女性史としての面もある。記録を丹念に追いながら、バッハ家の女性たちの生きざまを肌で感じ取っている。仮に、アンナ・マグダレーナがソプラノ歌手としてのキャリアを活かしたり、教育者として活動していたらどうだったか。それはわからないだろう。娘たちも音楽家として教育を受け、バッハ家を盛り立てていっただろうか。それは誰にもわからない。

 残された公文書から見た、アンナ・マグタレーナ、バッハ家の娘たちの生涯をたどった書として、お勧めしたい一冊である。

 

(伊藤はに子訳 2200円+税)