マリア・ジョアン・ピレシュ、モーツァルト、ピアノ協奏曲、第20番、K.466を聴く。ダニエル・ハーディング指揮、スウェーデン放送交響楽団との共演。
第1楽章。ハーディングによる暗く、悪魔の声が響くようなオーケストラによる提示部。ピレシュのビアノが入ると、暖かみある響きが素晴らしい。木管楽器との対話も見事。NHK「音楽の泉」で聴いたマルタ・アルゲリッチも見事だったとはいえ、ピレシュのピアノには、モーツァルトの心が宿っている。この楽章を聴くと、「魔笛」夜の女王のアリア「復讐心は燃えて」を思い出す。バミーナの前に現れ、一振りの剣を渡し、ザラストロを殺すよう迫る。そのせいか、多くの名ピアニストたちが取り上げていることも頷ける。カデンツァは、この曲を愛奏したベートーヴェンによるもので、モーツァルトの音楽にも合っている。コーダでも、「魔笛」の夜の女王のアリアの緊迫感が漂い、静かに閉じていく。
第2楽章。ロマンツェ。味わい深い、たっぷりした歌心。ピレシュの見事なピアノが聴きものである。ハーディングも見事に応じている。中間部の嵐、激しい中にも歌を忘れていない。コーダの余韻も聴き応え十分である。
第3楽章。激しいロンド、ハーディングのオーケストラが素晴らしい。ピアノと対等に立ち、音楽を作っていく姿勢は評価したい。ピレシュのピアノもこれ見よがしではなく、自然と弾き進めて行く。モーツァルトの心と共にあるピレシュのピアノの響きは透明感がある。歌心も十分。ここでも、ベートーヴェンのカデンツァを用いている。パウル・バドゥラ・スコダは、このカデンツァはモーツァルト的ではないと指摘している。スコダ自身、カデンツァを作曲している。こちらでの演奏も聴きたい。ニ長調に変わり、喜びの中に終わっていく。
日本での最後のコンサートを終えたピレシュに感謝の言葉を捧げたい。
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