新春恒例、クラシック音楽のコンサート始めといえば、NHKニューイヤーオペラコンサートである。昨年、今年では抽選による観覧者募集となっている。新型コロナウィルス対策だろうか。疑問である。これでは、コンサートを聴きたいクラシック音楽ファンを締め出すことになる。来年こそ、入場券を販売する方式を復活させてほしい。
今年の司会は宮本亜門、久保田祐佳。阪哲郎、東京フィルハーモニー交響楽団。二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホールアンサンブル、新国立劇場合唱団。
まず、合唱でヨハン・シュトラウス2世「こうもり」より、「夜会へようこそ」。森野美咲は「こうもり」から「侯爵様のような方は」でコンサートの幕開けとした。見事な歌唱、演技だった。宮里直樹、ドニゼッティ「愛の妙薬」から「人知れぬ涙」。これも素晴らしいものだった。石橋栄美、グノー「ファウスト」から「宝石の歌」、見事だった。
オッフェンバッハ「ホフマン物語」から3曲。村上敏明は「昔、アイゼナッハの屋敷で」を取り上げ、見事な歌唱と演技力で会場を盛り上げる。高橋納は「小鳥たちが憧れを歌う」、機械仕掛けの人形、オランピアの性格を捉え、コロラトゥーラも見事に聴かせた。「美しい恋の夜 舟歌」は小林厚子、山下牧子による2重唱。ヴェネツィアのゴンドラの恋を描き出している。
ドヴォルジャーク「ルサルカ」より「月に寄せる」、水の精ルサルカが王子への思いを歌う。森麻季がルサルカの思いをじっくり、心から歌い上げた。心に響く名唱である。ジョルターノ「アンドレア・シェニエ」から「青空を眺めて」、
名古屋出身の笛田博昭は、東京では藤原歌劇団で活躍するテノール。東京での活躍も目覚ましく、NHKニューイヤーオペラコンサートには常連となった。声の強靭さ、表現力が素晴らしい。イタリア・オペラのテノールでは優れた人材で、藤原歌劇団のオペラ公演で聴いてみたい。プッチーニ「トスカ」から「歌姫への愛」、「歌に生き、恋に生き」。当初、大西宇宙となっていたが、大西が体調不良のため、黒田博、大村博美となった。歌姫フローリア・トスカの恋人、画家マリオ・カヴァラドッシを亡き者にし、トスカをわがものとせんと図るスカルピア、トスカは神にすがる思いである。黒田、大村の掛け合いが見事。アリアでの大村が迫真に迫る歌唱、演技で迫った。
ヴェルディからは5曲。「ナブッコ」から「わが想いよ」、「闇の中から見える」は、二期会合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホールアンサンブル、新国立劇場合唱団がしみじみと、心に響くユダヤの民の思いを歌い上げた。妻屋秀和がユダヤの祭司の思いを見事に表現していた。「仮面舞踏会」から「最後の願い」、中村恵理はスウェーデン国王、グスタフ3世暗殺事件を題材としたオペラで、母親としての強い思いをしみじみと歌い上げていた。「ドン・カルロ」より「最後の時」、高田智弘はスペイン王家を舞台とした王、王妃、王子ドン・カルロの三角関係から生ずる悲劇で重要な役、ロドリーゴの別れを淡々、かつ心に伝わるように演じ、歌った。「シモン・ボッカネグラ」から「貧しい家の娘が」、「その名を呼ぶだけで胸が躍る」、砂川涼子、上江隼人は中世に栄えたジェノヴァ共和国の平民派、貴族派の争いを描くドラマで、実の娘と父親との再会を喜ぶ親子を見事に演じた。中世イタリアでは、ジェノヴァ、ヴェネツィアのように、都市共和国としてヨーロッパで大きな役割を果たした。ジェノヴァはサルディーニャ王国、ヴェネツィアはオーストリア帝国に併合され、19世紀にイタリアの主要都市となった。ジェノヴァでの平民、貴族の争いのドラマを描いたヴェルディは、イタリア統一の願いを込め、この作品を書いた。アリコ・ボーイトによる改訂版が成功、ヴェルディの名作となった。
プッチーニ「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」、福井敬がトゥーランドットへの一途な思いを歌いあげた。カラフに付き添ったリューの死までを描き終えたプッチーニの絶筆となり、様々な補完版がある。カラフの愛を受け入れたトゥーランドットを祝福する民衆たちのフィナーレを聴き、プッチーニの執念を感じ取るべきだろう。
マスネ「ウェルテル」から「誰が言えるか」、藤村美穂子のじっくり歌い上げる歌唱が素晴らしい。心に響く歌とはこういうものだろう。ヨーロッパで活躍する歌手として培ったものが感じられた。
フィナーレはヨハン・シュトラウス2世「こうもり」から「ワインの流れに」、ソリストたち、合唱が織りなす声の流れが2023年のオペラ、声楽のコンサートを占うものになるだろうと感じさせた。オペラ、コンサートを楽しみである。
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