世界のオザワ、小澤征爾の死に際し、多くの人々が弔辞を送った。小澤の父、開作は歯科医で、満州に渡り、満州国を五族協和の王道楽土として実現させようとする熱烈な理想主義者であった。軍人・満州官僚たちが利権を貪っていた現実を見た後、満州を去り、北京で歯科医を開業した。日中戦争にも反対していた。岸信介が自民党総裁になった折、
「日本から満洲に来た官僚の中で一番悪いのは岸信介だ。地上げをし、現地人は苦しめ、賄賂を取って私財を増やした。だから、岸が自民党総裁になったときにこんなヤツを総裁にするなんて、日本の未来はない。」
と言った。戦後、神奈川県川崎市に歯科医院を開業、1970年に急逝した。安倍公房、武満徹も満州生まれだった。
ベートーヴェン、ブラームスはリズム感、色彩感に溢れていた一方、大変深みのある内容だった。大地の香り、深さも感じられた。日本の指揮者がアメリカの名門、ボストン交響楽団を30年にわたって率いた功績は忘れてはならない。ただ、文化・学術の分野で、世界で活躍する日本人が少なくなったことは、最近の日本の零落ぶりを物語る。
子どもの貧困が深刻化して、習い事を諦める子どもが急増した。自宅で音楽教室を構える人たちの収入も減りつつある。ヤマハ・カワイの音楽教室も生徒が少なくなった上、講師がタダ働き、楽器店のハラスメントにも遭う実態が明らかになった。上野学園の経営問題、名古屋芸術大学の経営問題も表面化した。
小澤の父、開作が岸信介に向けた怒りを思うと、孫を鼻にかけた安倍晋三が9年近く首相の座にいて、日本をダメにしたことも肯ける。政治・社会には、安倍晋三の負の遺産の尻ぬぐいが続いている。音楽文化全体を見ると、1960年代から1970年代を支えた音楽家たちが続々、鬼籍入りしている。
日本は経済・社会のみならず、文化も再建の時期が来ている。小澤征爾という巨星が堕ちた今、後に続く世代から世界に羽ばたく日本の芸術家たちを育てるためには、あらゆる面で日本を再生する時である。
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