ナジェージダ・ピサレーヴア モーツァルト ピアノ協奏曲 第26番 K.537「戴冠式」

 ロシアのピアニスト、ナジェージダ・ピサレーヴァによるモーツァルト ピアノ協奏曲 第26番 K.537「戴冠式」。ティモシー・アンドリュース指揮、メトロポリス・アンサンブルとの共演、2016年のライヴ。

 1790年、皇帝ヨーゼフ2世が亡くなり、レオポルト2世が即位、フランクフルト・アム・マインで戴冠式が行われた際、モーツァルトもフランクフルト・アム・マインに出向き、コンサートを開いたものの、貴族の晩餐会・陸軍大演習と重なったため、収益は芳しくなかった。1788年から1791年、オーストリアは、同盟関係にあったロシアと共に、オスマン・トルコ帝国との戦争に突入、貴族たちも戦争に駆り出され、モーツァルトは予約演奏会の案内を出しても、開けずじまいとなった。戦争で文化も潰される。モーツァルトはなすすべもなかった。

 第1楽章の闊達さ。歌心も十分。オーケストラも見事である。第2楽章の素晴らしい歌いぶり。歌心たっぷりに弾き進んでいく。アンドリュースもピザレーヴァに寄り添いつつ、オーケストラから充実した響きを引き出している。第3楽章では闊達さ、スケールの大きさが光る。音色も美しく、粒も揃っている。クリアーで美しい。

 2022年から始まったロシアのウクライナ侵攻は2年を迎えた。ロシアの音楽家たちはどうしているだろう。ピサレーヴァの演奏を聴きながら、ロシアの音楽家たちの来日がなくなったことは残念とはいえ、致し方ない。ロシア音楽を演奏することに悩んでいる音楽家もいる。音楽家たちの声も聞きたい気がする。