カール・ベーム、ベートーヴェン、ミサ・ソレムニス、Op.123。ソプラノ マーガレット・プライス、アルト クリスタ・ルートヴィッヒ、テノール ヴィエスワフ・オスマン、バス マルティ・タルヴェラ。オルガン ペーター・プラニアフスキー、ヴァイオリン・ソロ ゲルハルト・ヘッツェル。ヴィーン国立歌劇場合唱団。ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団。
キリエ。ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ヴィーン国立歌劇場合唱団がベームに見事に応え、素晴らしい世界を作り上げている。ソリストたちもベームに見事に応え、ベートーヴェンの音楽が広がっていく。
グローリア。急ー緩ー急を取り、プライス、オスマンをはじめ、ルートヴィッヒ、タルヴェラの歌唱が素晴らしい。重唱部が絶妙で、心に響く音楽となっている。ヴィーン国立歌劇場合唱団も見事に応じ、大きな世界を形作っている。
クレード。壮麗さが際立つ。ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団が、ベームの指揮に応えている。中間部、イエス・キリストの生誕から十字架への苦しみ、ソリスト、合唱、オーケストラが一体化している。キリスト復活、昇天では見事なまとまりを見せる。
サンクトゥス、ベネディクトゥス。サンクトゥスでの重唱の美しさ、オザンナの壮麗さが見事である。ベネディクトゥスでは、ゲルハルト・ヘッツェルのソロが聴ける。1992年、ザルツブルク、ザンクト・ギルゲンで登山中に転落、52歳で世を去ったコンサートマスターが渾身のソロを聴かせていく。ヴィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサート・マスターに相応しい存在だったと評価は高い。カラヤン、ムーティも絶賛するほどだった。ルートヴィッヒ、タルヴェラからオフマン、プライスへと受け継がれ、四重唱となり、合唱も加わり、素晴らしい世界を生み出す。この作品を作曲中、ベートーヴェンが愛した女性、ヨゼフィーネ・フォン・シュタッケルベルク男爵夫人が41歳で亡くなった。ヴァイオリン・ソロも、ヨゼフィーネへの思いがにじみ出ているかのようである。
アニュス・デイ。タルヴェラが淡々と歌い、合唱が加わる。ドーナ・ノーヴィス・パーチェムでは、プライス、オフマンが見事な歌唱を聴かせ、四重唱となる。合唱も加わり、音楽は高揚する。ティンパニ・トランペットが戦争の響きを告げる箇所では、ナポレオン戦争の余韻か。しかし、平和で安らぎのある響きから、力強い締めくくりとなる。
ベートーヴェンは、オーストリア帝室では唯一の後援者・理解者・弟子であったルドルフ大公がチェコ、モラヴィア、オルミュッツ(現オロモウツ)大司教に任ぜられたため、叙任式のために作曲した。1820年、大公の叙任式が行われたにもかかわらず、ミサの完成は遅れ、1823年完成となった。初演は1824年4月18日、ロシア、サンクトペテルブルク。ベートーヴェンは、ロシアでのベートーヴェンの音楽の支援者、ニコラウス・ガリツィン侯爵に筆写譜を送り、初演を依頼した。返礼として、ベートーヴェンは、ガリツィン侯爵のために晩年、Op.127,130,133のガリツィン四重奏曲セットを作曲、献呈している。
ちなみに、ルドルフ大公は、ベートーヴェンをオルミュッツに宮廷楽長として招くことを考えていた。実現したら、甥カールをめぐる悲劇が起こったかを考えると、どうか。
全体を聴くと、ベームならではの芯の通ったベートーヴェンの音楽がずっしりとのしかかって来た。1981年、87歳の誕生日の2週間前、ザルツブルクで世を去ってから41年、今でもその重みは忘れられない。
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